2017年5月12日 (金)

「歴史に残る一大事」修復作業が意味するところ

 大規模トレイルラン・レース主催者のホームページ(環境欄)に新たな記事が掲載されていた。5月6日に、ボランティアの皆さんと主催者が、2016年大会に利用した黒塚・須山口登山歩道の修復作業やゴミ拾い活動をしたことの報告だ。
 
 
 直接の原因を作ったとはいえ、公共の登山道を修復したり、直接は関わっていないゴミを拾う皆さんの富士山自然環境保全への気持ちや行動に、まずは、感謝したい。
 
 そして、今回の補修活動が、「今後、黒塚・須山口登山歩道を大規模トレイルラン・レースのコースとして利用しない」という実質的なメッセージと受けとめたい。
 
 
 "なぜ"、そのように受けとめたのか? 
 

 それは、「黒塚の急斜面に数多くの丸太を運び、下り斜面もふくめ新たに、数十段の「階段木道」を設置した」と伝えられたからだ。しかも、過去2年間、この歩道の環境調査を担当して現地の荒廃ぶりの実情に詳しい、千葉事務局長が杭を打つ映像を目にしたからだ。千葉さんは、日本ランナーズ協会の理事として環境省のモニタリングのガイドラインづくりにも参画している、社会的にも重要な役割を担った方である。
 
 
 そもそも、昨年、今年と主催者が修復に使用した「階段木道」とは、どんな特徴があるのか、専門的なコンサルティング会社の説明を引用させて頂く( MTS雪氷研究所 )。「階段木道」はコストはかかるが、比較的平坦な場所では、有効かつ快適な歩行ができると評価した上で次のように解説している。

『しかし、傾斜地への階段木道の設置には、土中に杭を打って固定する必要があります。杭打ちは地盤構造を破断します。 階段木道は下山時の衝撃踏圧で変形しやすく、雨水の流下や凍上、霜柱で土壌流出し、耐用年数が数年と短いことが欠点です。さらに、改修工事の度に打杭による地盤の損傷と歩行路面の位置が低下し、改修の意図とは逆に登山道周辺の荒廃を進めてしまうという問題を抱えています』

 
 リンク先のページでは、登山者の踏圧によって数年で劣化する階段工法が分かりやすく図示されている。この図では通常の歩行で数年をかけて踏圧と土壌流出により劣化が進行する。

 軟弱な黒塚・須山口登山歩道を利用した大規模トレイルラン・レースでは、そのことは、私達の環境調査で記録してきたように、歩道の支持力に対して過大な負荷が短時間のうちにかかり、歩道は瞬く間に劣化し、登山道周辺は荒廃が進んでいる。通常、数年かけて起こる劣化が見ている間に起きてしまう。実際に、主催者設置の階段木道のうち、上り斜面として利用した黒塚南斜面では、4箇所、6木段、下りとして利用した北側斜面では6箇所9木段が損傷した。
 
 
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(横木を支える立杭も含めて「階段木道」が損傷。歩道表層に大きなダメージを与えた)
 
 

 年間降雨量が全国平均の2倍の約3,500mmと多く、火山堆積物に覆われて崩れやすく、現に侵食が進む側火山中腹を直線的に横切る急傾斜の歩道(もともとは、演習地との分離帯)の補修に、この「階段木道」が適しているかは、歩道の利用方法によって大きく評価が別れる。軟弱な急傾斜地で大規模な負荷が集中的にかかる場合には、適しているとは言えない。2015年の荒廃後、2016年の大会前に「階段木道」を整備したものの、その後の大会で更に酷い荒廃が多発した事実がこのことを明確に物語っている。
 
 
2016cs2
(静岡県CS立体図。青色が凹部、赤色が凸部。黄線が2016年のコース。黒塚では土壌侵食が進み、放射谷が発達している。崩れやすく急傾斜の黒塚中腹の分離帯をコースとして利用している)
 
 
2016vs2015
(各調査区間ごとの2015年と2016年の荒廃比較。2016年は、歩道表層や路体に関連する荒廃が多発) 
 
 
 
 2015年大会後の黒塚・須山口登山歩道周辺環境の荒廃調査報告を受け、開催された意見交換会(2016年2月)では、同歩道の迂回を検討することになリ、2016年春には、自衛隊演習地内の利用が可能になったと千葉さんから連絡があった。しかし、9月、大会前のコース説明会では、「現地確認の結果、迂回コースは認められず、次善の策として土留め処置(木段設置)を行い、持続利用可能と判断した」と説明された。説明会で主催者が配布した文書には、今回修復作業が行われた黒塚下り斜面について以下のように記述されている。
 
 

・下り木段は、通常の利用者がいない事と他のトレイルの歩道状況とも比較して、設置原因による侵食の恐れもある事から最小限度にとどめております。

 
Dsc_1285
 
  
 つまり、主催者の皆さんは、雨が多く崩れやすい黒塚では、下り斜面の「階段木道」は、設置することによって影響がでることが分かっているのだ。通常の利用者が少なく、荒廃の主な原因は大規模トレイルラン・レースにあることも分かっている。今回の「階段木道」補修作業の後に、再び、大規模トレイルラン・レースで、黒塚・須山口登山歩道をコース利用し、大きな負荷をかければ、「改修の意図とは逆に登山道周辺の荒廃を進めてしまう」ことを主催者は理解しているはずだ。
 
 
 

 公開された映像では、作業終了後、鏑木実行委員会委員長が「由緒ある須山口登山歩道を補修し、『歴史に残る一大事』をやっていただき、、、」と挨拶している。
 
 2016年大会直後にもボランティアが参加し歩道の補修・整備が行われたと伝えられていて、2回めに当たる今回の修復活動が、"なぜ"、「歴史的に一大事」といえるのだろうか?
 
 もし、コース再利用を前提として「階段木道」整備をしたのなら、今までの繰り返しで、結果は、さらなる荒廃の拡大であり、激甚化になることは明確だ。つまり、「歴史に残る一大事」発言とは結びつかない。
 
 「レースが引き起こした荒廃に向かい合い、歩道の補修をしっかり行う。そして、今後、黒塚・須山口登山歩道を大規模トレイルラン・レースのコースとして利用しない」と考えているから、「歴史に残る一大事」になるのだと思いたい。


 鏑木さんは、日本を代表するトレイルランナー団体の一つ、日本トレイルランナーズ協会の責任者だ。この4月にトレイルランニング大会の開催ガイドラインを発表した。このガイドラインに準拠すれば、土壌が脆弱で、この5年間荒廃が拡大し、激甚化している黒塚・須山口登山歩道は、コースとして利用することはできない。
 
 このガイドラインづくりには、ランニングを愛し、自然を大切にする畏友、村松さんも関わっている。尊敬するランニング界の大御所、山西先生も賛同されているに違いない。そうしたガイドラインを責任ある立場にいる鏑木さんが遵守しないとは、到底思えない。

 
 
 補修作業を伝える映像では、ゴミ拾いも紹介されていた。ありがたいことだ。かなり、古いゴミから、どうしてこんなところに、こんなゴミがと思えるものまである。お疲れ様でした。
 
 


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2017年3月 4日 (土)

持ち込まない。持ち出さない。

 ふじさんネットワークが作成した「富士山に迫る外来植物」と題したクリアフォルダーをもらった。外来植物が与える影響が分かりやすく図示されている。このクリアフォルダーはふじさんネットワーク通信にも紹介されている。

 今まで、繁殖力旺盛な外来植物の侵入によって、富士山の貴重な植物が衰退する部分を主に注目していた。しかし、影響は、それにとどまらず食物連鎖や分解を通じて生態系全体に及んでくることが伝わってくる。
 
 
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(監修  増沢武弘 ふじさんネットワーク会長、 作成 ふじさんネットワーク事務局)
 
 

 静岡県が実施した外来植物の調査やボランテイアによる富士山自然環境保全活動の積み重ねから、富士山麓の外来植物侵入箇所も示されている。水ヶ塚駐車場ふきんには外来植物のハルザキヤマガラシが記されている。これは、私達の大規模トレイルラン植生保全環境調査で、須山口登山歩道や周辺で毎年確認し、拡散を懸念している外来植物だ。
 
 
201703clearholderback
(監修 増沢武弘 ふじさんネットワーク会長、 作成 ふじさんネットワーク事務局)
 
 
 
 日本でも有数の来訪者があり、国外からの観光誘致も盛んな富士山麓で、こうした外来植物の知識が広く普及し、持ち込み対策や除去活動が拡がることは大切だ。富士山の生態系の劣化を防ぎ、自然環境の価値が高まることにつながると思う。
 
 
 富士山の外来植物が話題になると、いつもちょっと心配していることがある。イタドリという富士山ではよく見かける植物だ。特に富士山固有の植物ではなく、日本全国、周辺の国々にも生息している。このイタドリは、富士山の生態系で問題になっている訳ではない。だが、園芸用として英国へ輸出されたものが、英国で旺盛に繁殖し周辺の環境へ悪影響を与えている。米国でも被害がでて、イタドリは世界の侵略的外来種ワースト100(国際自然保護連合IUCN)に選定されている。
 
 富士山のイタドリが持ち出され、他国の自然環境に影響を与えていると言いたいわけではない。昨今のように山麓から、山頂まで多くの外国来訪者が訪れ、アウトドア活動を愉しむ国際的な時代には、外来種の生態系への影響は、外来種の持ち込みとともに、持ち出しにも気を配る必要があるのではないか。
 
 
 
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(ベニイタドリ イタドリの高山型、別名「フジイタドリ」、「メイゲツソウ})

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2016年11月30日 (水)

たくさんの"なぜ"

 モニタリング調査の報告をまとめ、5年におよぶ報告書や写真、映像を見ていると、大勢のランナーが繰り返し通過したあとの"富士山南麓の歩道(森の小径)"に幾つもの"なぜ"が浮かんでくる。


●昨年、酷く泥濘るんで著しい荒廃が見られた登山歩道で、"なぜ"、今年はさらに酷い荒廃が引き起こされたのか?
 
●私達の過去からのモニタリング結果や、とりわけ、昨年、今年の意見交換会、合同現地調査、要望書にて、過去に多くの影響がでた場所の迂回や雨天時の迂回路の準備をお願いしたにもかかわらず、"なぜ"、考慮されなかったのか。
 
●9月になって、まとまった降雨が続いて迎えた当日の大雨、雷雨の最中に、重大事故の発生や、通過による荒廃が予想される状況で、"なぜ"、大勢のランナーをスタートさせたのか? 主催者は、スタート前に、いつ、コース確認をしたのか?
 
●年間雨量3,500mmを超える富士山南麓で、月間雨量の最多月9月に"なぜ"、実施するのか?
 
●"なぜ"、富士山南麓の軟弱な歩道で、一周組を半周組が追い越し、両者の負荷が加わるコースどりなのか?
 
●そもそも、側火山の崩れやすい、現に崩壊や侵食が進んでいる、5年間の調査で検証された土壌支持力が小さい(軟弱な)歩道を、"なぜ"、大勢のランナーで利用し、侵食を加速させるのか?
 
●"なぜ"、夜間まで奥山の貴重な動植物の生息域を利用するのか?
 
●主催者の事前に5箇所の場所を決めて変化を見る調査方法で、"なぜ"、大半の荒廃が把握できるのか? 全区間を見て初めて、大半の荒廃が分かるのではないか。
、、、、、
 

 それぞれの"なぜ"には、それぞれの答えがあるのだろうが、もう一度、大勢のランナーが通過したあとの"富士山南麓の歩道(森の小径)"を見つめたい。

 

黒塚・須山口登山歩道の調査区間全体
 
Photo
(調査区間の航空写真 UTMF/STYコースは黄色点線、赤線は土石流危険渓流、紫エリアは土石流危険区域)
 
 
全調査区間に共通して、
 
1)地質: 側火山堆積物や土壌が浅く崩れやすい。
2)地形: 須山口登山道で過去に多くの荒廃箇所が出た、10度を超える急傾斜地が大半を占める。
3)気象: 過去30年間の年平均降雨量が3,000mmから3,500mmと多雨。
4)災害: 調査区間は全て土石流危険区域に指定されている。
5)来訪者: 2014年の調査では年間約1,300人が来訪し、その85%が大規模トレラン・レースの通過者。
 
 

全区間8倍速 (10分31秒)
 
 
 
区間ごと
 
区間⑦(別荘地北東~鉄塔) ほぼ等高線に沿う。鉄塔周辺に短い急傾斜地(25度以上)がある。
 

区間⑦(14分29秒)
 
 
 
区間③(鉄塔~放射谷群南端) 急傾斜(25度以上)を登る。今年主催者により、土砂移動防止の丸太階段と歩道に沿った縦置き丸太が設置された。
 

区間③(16分16秒)
 
 
 
区間④(放射谷群南端~フジバラ平) 急傾斜(25度以上)で下る。多数の放射谷をアップダウンする。一部、過去3回の大規模トレイルラン・レースによる荒廃が見られた須山口登山歩道(フジバラ平南東)がコースに設定された。
 

区間④(22分31秒)
 
 
 
区間⑤(フジバラ平~崩壊崖の狭い歩道) 崩壊崖上の狭い登山道を通過。過去4回の大規模トレイルラン・レースによる荒廃が見られた。
 

区間⑤(22分24秒)
 
 
 
区間⑥(崩壊崖の狭い歩道~涸沢出口) 大雨の際に急増水する涸れ沢を登山道に利用。過去4回の大規模トレイルラン・レースによる荒廃が見られた。涸れ沢での増水については、地域では知られており、私達も2012年の環境パトロールの報告で注意をよびかけた。


 

区間⑥(9分50秒)
 
 
 
  
 大規模トレイルラン・レースで利用される歩道の管理や荒廃の研究、歩道やその周辺の自然環境への影響に関心をお持ち方には、私達の「植生保全環境調査報告書」を送らせていただきます。
 
住所、氏名、利用目的を下記のコメント欄にて、ご連絡下さい(コメント欄への記入は表示公開しません)。折り返し報告書を郵送いたします。
 
お互いのモニタリング調査などの共有を通じて、自然環境の保全や持続可能な利用につながればと考えています。ご協力お願い致します。

  

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2016年8月18日 (木)

側火山エリアは迂回を

富士山周辺の歩道を2,000人を超えるランナーが走るレースが今年も開催される。富士山南麓の生物多様性が豊かな側火山エリアをコース利用する。
 

主催者や参加するランナーの方は側火山エリアを迂回して下さい。あらためて、お願いします」。

昨年、環境アセスに基いて、迂回をお願いしたにも関わらず、雨の中でさえ強行された。その結果、コース利用した歩道や、はみ出した歩道周辺がどんなに荒れたか、思い出して欲しい。


2016pointss
 
 
 
側火山エリアの自然度が高い歩道の迂回をお願いしているのには、過去の調査記録から理由がある。


 ①南麓側火山周辺の歩道は崩れやすい。土壌硬度が不足しており、大規模なランナーの走行、歩行通過を支持できない。


 ②側火山エリアは、多様な自然環境から、多様で貴重な動植物が生息している。夜間もふくめ、長時間の利用は、そこに生息する動植物に大きな影響がある。足元を照らすランナーのライトも、夜間活動に適応してきた動物には大きな脅威だ。


 ③その側火山エリアが、追い越し区間に使われている。一周組の遅いランナーを、走り始めで元気な半周組のランナーが追い越す。シングルトラックでの追い越しは、歩道外植生への踏み込みになる。


地形の凹凸が分かりやすい赤色立体地図でみると、傾斜があり崩れやすい側火山そのものや周辺部を過去4年コース利用していることが確認できる。

Redmap


貴重な富士山南麓側火山エリアの保全と持続可能な利用を願っています。

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2016年7月23日 (土)

「トレイルランニング」報道にみる公共放送の公共意識

「トレイルランニング」の公共意識を扱ったテレビ放送があった。公共放送が、この社会問題をどのように、取り上げるか視聴した。


前半は、今、首都圏各地で開催されているトレイルランニング大会の一例として、埼玉県・奥秩父で開催された700人規模の大会の話題。後半は、トレイルランニングに対する社会的議論の例として、鎌倉や高尾山でのハイカーへの危険やトレイルランニング愛好者によるマナー自主啓発などが伝えられていた。


後半部分は、公共の山道での、普段お目にかかるランナーとハイカーの軋轢といった話だ。最近、多くのハイカーが、山道で実際に、「怖い」、「危ない」と思った経験をしている。こうした報道や議論によって、安全に関わる部分は、公共のルール(規制)が設けられるだろう。マナー改善の取り組みも、トレイルランニング固有の問題というより、歩く人が利用する公共の道での課題のひとつとして改善されていくのではないか。


前半部分のトレイルランニング大会は、番組キャスター自身が参加し、走っている様子を伝えていた。彼は、「自然の中を走るのは、素晴らしい」といった感想を話していた。開催自治体は「人が来れば、地域振興だ」という趣旨の発言をしていた。一方で、トレイルランニング大会固有の自然環境への影響について、全くといっていいほど触れていなかった。


2015年に環境省が出した「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱い」では、大会主催者に、モニタリングの必要性と、万一環境の改変等が確認された場合は、大会主催者による原状回復を行うことを求めている。


このモニタリングに関連して、登山道の荒廃問題に詳しい、北大の愛甲哲也さんは「走ったり,追い抜いたりすることによって,土壌侵食を加速していないか,路傍の植生を踏みつけていないか,周辺の小動物の生息は影響がなかったかなど,トレイルランニング大会等が顕著に関与したかがモニタリングのポイント」と指摘している(『「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱い」に思ったこと』、「公園の研究」)。


モニタリングを持ち出すまでもなく、一般の視聴者はもちろん、トレイルランナーでさえ、レースの後、彼らが通った公共の山道がどうなったか知らない。過去4年間、ボランティアとして富士山南麓での大規模トレイルランニング大会の負荷を記録してきた経験からいえば、コースとして利用された公共の山道は、年々、悪化をたどっている。公共放送が自然環境への影響を取材することは、全く難しいことではない。


公共放送は、ランナーとハイカーとの軋轢問題と同様に、トレイルランニング大会の負の部分も報道することによって、議論を促し、解決への知恵を求める役割があるのではないか。公共放送は、「公共意識とは何か」範を示すときだ。


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2016年7月10日 (日)

富士山南麓の歩道は大規模トレイルラン・レースには軟弱

 6月4日(土)ふじさんネットワーク総会後の活動報告会で、「富士山エコレンジャーによる植生環境保全調査(4年間のまとめ)」を報告した。 質問を入れて30分の持ち時間の中で、「富士山南麓の歩道は大規模トレイルランレースを実施するには軟弱」、「夜間、長時間利用による野生動植物への悪影響」といった趣旨は、お伝え出来たと思う。
 

富士山南麓の歩道は大規模トレイルランレースを実施するには軟弱
 
2016060420160620p17
2012年の主催者報告書のなかで、主催者は利用したコースの実施後土壌硬度が27mm(山中式土壌硬度計)以上ではなかったから、裸地化の心配はないとした。そのとおりだ。土壌硬度が27mm以上といえば、林業で小型トラックの通行が可能になるよう補強された作業道レベルの硬さだ。もともと、須山口登山歩道のように軟弱な歩道は、大規模トレイルラン・レースで27mm以上にならないだろうし、実際、主催者の報告では18mmを超えない。
主催者の写真を見ても分かるように、歩道の表層や植生に、大規模ランナーの通過によってできた変化(轍のような痕や損傷)が見られることがポイントだ。
 
 
2016060420160620p27
主催者が行った山中式土壌硬度計を使った大規模トレイルラン・レースの調査で注目すべきは、実施前に測定した土壌硬度だ。これは、コース(歩道)の土壌支持力、地耐力を示している。私達が4年間モニタリングしてきた須山口登山歩道は、このブログでも何度もお伝えしたとおり、レース直後、降雨後に荒廃が記録されている。土壌支持力(土壌硬度)が低い、軟弱な歩道は、大規模トレイルラン・レースの負荷には耐えられない。
 
私達の記録と主催者の実施前土壌硬度調査から、事前の環境アセス、コース選定の条件が見えてくる。土壌硬度15mm以下は軟弱で大規模トレイルラン・レースには耐えられない。15mmから18mmは要注意だ。


夜間、長時間利用による野生動植物への悪影響

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トップアスリートと一般ランナーが長距離を競技するこの大会では、先頭から最後尾まで長く伸び、通過にかかる時間が長くなる。今までの大会では、須山口で通過に、9時間から26時間を要していている。棒グラフの黒い部分は夜間。深夜でさえ、延々と通過し続けている。「原生的な自然環境が豊富に残っているゾーン」の夜間利用は、野生動植物に対する大きなストレスだ。
 

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人身事故回避と絶滅のおそれがある、富士山地域個体群の保護をめざして「ツキノワグマが生息することを意識した森林の利用(あるいは利用制限)」を静岡県の野生動物専門家は提言している。そのツキノワグマのコアになる生息域を大規模トレイルラン・レースは、コースとして利用し続けている。今年2月の意見交換会で示された今後のコースや、周回方向は、さらにツキノワグマのコア生息域に入り込み、そこでの追い越しを前提としている。最近、富士山南麓ではツキノワグマの行動圏が変化したのか、従来、見られなかった場所での発見、注意喚起の掲示があり、お互いにとって不幸となる遭遇を懸念している。


今回、毎日新聞の取材があった。報告会翌日、朝刊静岡版に記事が掲載された。全国からアクセスできる毎日新聞電子版にも掲載された。富士山自然環境保全のため、社会へ発信し、現状を共有していく作業は重要だ。

富士山での大規模トレイルラン・レースの影響を知っている人は、ほとんどいない。この実態を広く世の中と共有し、課題箇所の迂回など、より賢明な方法がとられていくことを期待したい。


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2015年9月 7日 (月)

初めての意見交換会と合同調査

4年間の調査活動を続けて、初めてこうした場に、富士山エコレンジャーも参加した。意見を交換し、荒廃の現状を共有していくプロセスは大切だ。


ウルトラトレイル・マウントフジ2015に係る意見交換会
2015年7月27日 富士宮市役所

出席者
主催者 UTMF実行委員会事務局、富士宮市(スポーツ振興課、花と緑と水の課)、富士市(環境保全課、スポー ツ振興課)、御殿場市(文化スポーツ課)、裾野市(生涯学習課、商工観光課)、小山町(商工観光課)
環境省箱根自然環境事務所、沼津自然保護官事務所
静岡県自然保護課
富士山エコレンジャー

議題は、今年の開催計画、開催に伴う課題など

 
富士山エコレンジャーの調査担当者として、下記のやりとりが印象に残った。

(吉永)の質問
-主催者の環境調査について、なぜ、調査報告書にある調査箇所だけでいいのか。調査地点選定方法や調査基準を示して欲しい。

(村越副実行委員長)
-マンパワー不足及び予算的な面から、こちらの示す箇所以外の地点での調査は難しい。 極力、影響がありそうな箇所を選定している。
-可能なことと不可能なことがあるので、その都度ご意見を頂きたい。

(吉永)
-須山口での主催者の環境調査では、影響がなさそうな平坦地のみの調査が少数箇所(距離にして須山口利用区間の1%未満)で行われた。荒廃が多発している傾斜地は調査地点に入っていない。
-こうした調査のやり方では、主催者は荒廃箇所が把握できず、原状回復などの対応やコース選定、募集人数の決定などに主催者の調査が活かされない。主催者によるPlan-Do-Seeの順応的管理プロセスがまわらず、年々荒廃が深刻化しているのではないか。
-主催者調査報告書では、荒廃箇所があれば原状回復すると言っているが、原状回復はなされていない。

(村越副実行委員長)
-私達は荒廃とは考えていない。

(吉永)
-それは村越さんの考えであり、この意見交換会に参加された主催者のみなさんと、現地を一緒に見に行きましょう。現状を共有しましょう。
・・・・・


主催者は何の目的でコストをかけてまで、調査するのか? 登山道や周辺の自然環境への影響を調査し、影響があれば、極力、その影響を最小化させる順応的な管理が主催者に求められているのではないのか? 影響の出ない箇所の調査をもって、荒廃と考えないがため、利用を繰り返す実行委員会のやり方は、富士山南麓の森の登山道周辺を荒らし続けている。

意見交換会の席上、要望書を主催者の皆様に説明し改善を願いした。この要望書は、富士山南麓での深刻な登山道荒廃の再発防止を目指したもの。富士山南麓で自然環境保全のボランティア活動を行っている多くの皆様に賛同いただいた。
 
 


須山口登山道合同現地調査
2015年8月21日

参加者
主催者 UTMF実行委員会事務局、御殿場市(文化スポーツ課)、裾野市(生涯学習課、商工観光課)
地権者
環境省沼津自然保護官事務所
静岡県自然保護課
富士山エコレンジャー


私達が4年間調査を続けている須山口登山歩道を歩いた。斜面の荒廃箇所やほとんど影響が出ない主催者の平坦地調査地点で、過去4年間の変化を写真記録をもとに説明した。希少生物(植物、動物)や外来種の状況も説明し、荒廃状況を主催者にも確認してもらった。

また、今年のコース選定では、私達が調査を続けている須山口登山歩道の一部が4回目、しかも過去最大の2,000人を上回るランナーに再び利用される。加えて、崩れやすい側火山の黒塚急斜面、さらに、生物多様性のホットスポットともいうべき場所が新たにコース選定されている。主催者の方々に、私達の環境アセスを説明し、迂回を強くお願いした。

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2015年3月13日 (金)

ほんとうですか? 

ウルトラトレイル・マウントフジが開催されている登山道は、この3年間で見違えるほどきれいになりました」(ドクター六花のランニング賛歌(45) 山を走るマナー、トレイルランの心得)


トレイルランナーの方へのマナー啓発は良いことだと読み進みながら、驚きました。断言していいのですか。


私達は、ウルトラトレイル・マウントフジで利用された、須山口登山歩道を3年間モニタリングしました。現在、登山道やその周辺は多大なインパクトを受けています。こうした現実は、昨年、ふじさんネットワーク主催の富士山勉強会でも報告しました。その時、筆者の福田さんも参加されていました。2012年約700人、2013年約1,800人の大勢のランナーがレースで通過した登山道がどう変化していったか、福田さんに見ていただきました。昨年(2014年)約1100人のランナーが通過したインパクトは、報告書を実行委員会へお送りしているのでご存知だと思います。須山口登山歩道では、主催者による登山道と周辺の原状回復は、いまだありません。


この3年間でウルトラトレイル・マウントフジが開催された登山道がすべて須山口登山歩道のようになったとは言いません。福田さんがおっしゃるように、きれいになった登山道もあるでしょう。


須山口登山歩道は、ウルトラトレイル・マウントフジを除けば、来訪者は年間数百人規模で自然がよく残っています。しかし、大勢のランナーの連続踏圧と、その後の雨によって、特に富士山南麓の傾斜地では土壌流出など大きなインパクトが出ました。また、毎年利用するので、登山道の拡幅や複線化を起こしています。その上、原状回復がなされていない箇所が多々あります。こうしたモニタリング結果に目を逸らさず、大勢のランナーがレースで通過した後、森の小道(特に傾斜地)がどうなるか、きちんと受け止めてください。大勢のランナーが短期間に連続踏圧の負荷を加える、大規模トレイルラン・レース特有のインパクトをトレイルランナーの方へ伝えて下さい。
 
 
 
ふじさんネットワーク所属の富士山エコレンジャー連絡会がまとめた環境調査報告書


静岡県が指定している自然環境保全地域内の歩道での静岡県の調査
ウルトラトレイル・マウントフジ明神峠自然環境保全地域現地調査報告書

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2014年1月 9日 (木)

トレイルラン植生保全環境調査・中間報告

先日開催された第2回スポーツフォーラム(代表 村松達也氏、岡山市)、シンポジウム「トレイルランニング大会と環境」で、富士山エコレンジャーの仲間と調査した報告書概要を説明した。限られた時間のなかで、多くは語れなかったが、パネリストの方や参加者のトレイルランナーや大会主催者の皆様から大きな反響をいただいた。今後も機会をつくり、より多くの方々と共有し、その地域の自然環境に合った利用のあり方を考えていきたい。

説明内容
1.富士山南麓の森の特質
戦後の「拡大造林」にはじまり、平成8年の台風による大倒木被害、その後の富士山自然林回復活動が行われてきたが、最近のニホンジカ激増による森林被害と土壌被害は増え続けている。もともと崩れやすい富士山南麓は、森の衰退と土砂災害の危険にさらされている。その中でボランティアの協力を得て、豊かな森林生態系をめざした地道な自然林回復活動が続けられている。

2.イベントによる連続踏圧のインパクト
①500人規模のハイキング。ガイドレス・ツアーよる火山荒原でのフジハタザオなど指定植物の大規模な踏みつけによる植生破壊や同様な利用による登山道表土層の破壊事例。
②750人規模のトレイルランニングによる登山道表土層の破壊とその後の降雨による土壌侵食の拡大。危険な崩壊地の利用例。
③2000人規模のトレイルランニング大会による、さらなる登山道の激しい荒廃、世界文化遺産に登録された登山道の複線化、国立公園特別地域内での登山道を外れた植生踏みつけの事例などを通じて、大勢の来訪者が短時間に登山道を利用したときに、必ず起きた連続踏圧の大きなインパクトを振り返った。

3.持続可能な利用に向けて
事前の環境アセスが最も重要だ。後追い調査では、富士山南麓の森の自然環境保全は難しい。
富士山大沢川周辺で行われた土壌踏圧実験は、踏圧の蓄積による土壌悪化を明らかにしている。こうした貴重な知見が活かされることを期待したい。自然環境を利用する上で、専門家による継続的なモニタリングも欠かせない。関係者間での利用と保全に関するルールづくりも喫緊の課題だ。

富士山エコレンジャー連絡会の調査報告書
「平成25年度 トレイルラン植生保全環境調査・中間報告」

富士山大沢川で行われた土壌の踏圧実験調査
「踏みつけはここまで!-踏圧の蓄積と土壌の悪化-」 関元聡、1998, プレック研究所

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2013年2月 5日 (火)

剣ヶ峰の環境変化

山頂部では厳冬の気象条件が続いている。氷点下30℃を下回るこの極寒の環境の中で、剣ヶ峰周辺では蘚苔類(コケの仲間)は、ひっそりと生き続けている。凄い生命力だ。

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富士宮から見た剣ヶ峰
   
夏シーズン、剣ヶ峰を訪れて山頂に生息するコケ類を見るのは、楽しみのひとつ。標高3770mを超える極限の環境に生きるコケ類に元気をもらっている。御殿場口の長い長い登りへのごほうびだ。
 
   
だが、ここ数年、剣ヶ峰のコケ類には、変化が起きているようだ。
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ビニール紐が絡まり、枯れた部分が拡がった。
  
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こちらのコケ類も黒色の部分が広がりゴミが着いている。
  
  
剣ヶ峰周辺のコケ類の変化
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剣ヶ峰北東隅の岩肌。7年の経過で比較すると、コケ類の生息面積が減っているように見える。


生息環境が変化したのだろうか
  
いわゆる地球温暖化の影響か?
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剣ヶ峰の夏シーズン平均気温の変化(気象庁統計データから)


山頂部への来訪者増加の影響か?
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8合目以上の来訪者の変化(環境省統計データより)
  

山頂部全体でコケ類が変化している訳ではないようだ。御殿場口頂上から富士宮口頂上への歩道周辺のコケ類は青々としている。剣ヶ峰周辺のコケ類には変化がみられる。
  
 
剣ヶ峰周辺は来訪者と重機の通行路になっている。夏シーズン前に雪が残っていると重機で除雪される。こうした人為的な行為は剣ヶ峰周辺の山頂生態系に影響をあたえていないのだろうか?
 
 
また、剣ヶ峰の測候所は無人化されたが、夏シーズンには研究と居住に利用されている。その人為的な影響はないのだろうか?
   
測候所の維持補修や研究・居住による山頂生態系への人為的な影響は調べられているのだろうか? 公表されているのだろうか? 
 
例えば、雷雨が近づくと、自家発電に切り替えられる。自家発電時に風がなけれは゛、剣ヶ峰の測候所周辺は、その排気ガスで目やノドが痛くなる。この汚染ガス(窒素酸化物NOx)は、高山のコケ類生息に影響は無いのだろうか?
    
関係者の方には、山頂生態系への負荷を減らす努力をお願いしたい。 
 
 
剣ヶ峰への最後の登り「馬の背」は、長年の重機通行により、岩がツルツルに研かれ滑りやすくなっている。来訪者の安全のため、絶えず土砂、土壌が撒かれる。撒かれた土砂、土壌は、色や形状からみて、山頂部のものでは無さそうだ。
 
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この山頂外の土砂、土壌は、来訪者の通行で飛散し、山頂部へ拡散していく。この大量の土砂拡散もコケ類の生息環境に影響しているかもしれない。この飛散する土砂や土壌が山頂外のものであれば、種子の混在も考えられる。山頂以外の植物や外来種が侵入してきてもおかしくない。
  
特別保護地区として護られているはずの山頂部の自然環境。その調査と適切な対処をお願いしたい。

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