環境パトロール (2020-09) 自然休養林(5)
日時 | 2020年(令和2年)11月9日(月) 8:30 - 17:00 |
区域 | 富士山自然休養林D/E、C、Hコース |
天候 | 曇り、霧雨 |
山頂 | (8時) 気温-9.9℃、湿度 27%、632.4hPa |
河口湖 | (8時)上空3km W, 19m/s |
富士山自然休養林D/E、C、Hコースを、水ヶ塚公園、須山口登山歩道1.5合、ガラン沢、御殿庭下、宝永第二火口縁、御殿庭上、御殿庭入口、御殿庭下、登山歩道1.5合、水ヶ塚公園の順路で環境パトロールした。当日、富士山自然休養林保護管理協議会のホームページでは、御殿庭下より上部のDコース、Hコースは立入禁止だが、御殿場市のホームページではHコースは利用可能となっていた。登山歩道入口の案内から立入禁止の表示は消えていたが、ガラン沢と御殿庭下の現地と水ヶ塚公園のトイレには立入禁止の表示があった。
水ヶ塚から御殿庭下、御殿庭入口までの区間での状況は、9月、10月の環境パトロールとほぼ同様だった。一部の歩道段差や樹木根の隙間に石が積まれていた。同区間では、ピンク色のビニールテープが増えていた。御殿庭入口から御殿庭下までの区間では、ピンク色のビニール・テープが大幅に増加した。ビニールテープが標準標識にまで付けられていた。これは、2009年のトレイルラン・レースに見られたビニールテープ急増と同様だ。御殿庭の風致景観に派手な色彩のマーキングが異様に目立った。
宝永第三火口周辺では、異なる地点の標識に同一地名「御殿庭上」が使われれていて、過去10年改善をお願いしてきたが、未だに変更されていない。来訪者の安全のため、切に対応をお願いする。
水ヶ塚公園駐車場の車は、朝8時頃6台程度。パトロール中に来訪者3人に出会った。
歩道
D/Eコースの水ヶ塚から須山口登山歩道1.5合までの区間では、本来の歩道上の歩きづらい段差の一部や樹木根の隙間に石が積まれていた。歩道補修作業の一環かもしれない。
歩きづらい大きな段差に石積み
侵食された樹木根の隙間に石積み
C/Bコースでは、Bコースとの分岐点(標準標識「ガラン沢」)付近の涸れ沢を渡る歩道に流出した石が堆積していた。周辺にはガイドロープがあるが、倒木などで外れて植生の中を迂回している箇所かあった。御殿庭下までの区間は、他コースに比べて侵食など荒廃は少ないが、複線化した部分があった。
倒木が歩道を塞ぎガイドロープ倒し植生部分に迂回
御殿庭近く尾根筋になると歩道の複線化
Cコースの御殿庭下から宝永第二火口縁までの区間に設定している定点観測地点(標高2,080m)では、2007年頃から歩道が雨水によって洗掘され、歩行困難となり(①)、カイドロープで西側を迂回(②)。迂回付近は樹木など植生が損傷し(③)、迂回路の侵食がはじまった(④)。
①定点観測地点、歩道が洗掘、右側を歩行、2011年5月
②洗掘拡大で左側を迂回するガイドロープ、2011年9月
③左側の迂回路により植生損傷、2013年8月
④迂回側の植生損傷、2019年8月
⑤現状
Hコースの宝永第三火口内の歩道が毎年の宝永山方面からの砂礫流出や利用の影響などで狭く不明瞭になっていた。 宝永第三火口から御殿庭入口までの歩道は、毎年報告しているように、歩道の拡幅、複線化、樹木根の露出・損傷が見られた。Cコースと同様に、水切りが付けられている箇所があった。御殿庭から宝永第二、第三火口周辺では、比較的新しい踏み跡がみられ、立ち入り規制時も多くの来訪者が御殿庭下から上のDコースやHコースを利用したようだ。
Hコース宝永第三火口内の不明瞭な歩道
歩道の拡幅、複線化、樹木根の露出・損傷
歩道の拡幅、複線化、樹木根の露出・損傷
歩道の複線化
歩道の拡幅、複線化、樹木根の露出・損傷
水切り
宝永第二火口、第三火口鞍部の踏み跡
標識
富士山自然休養林のハイキング・コースには、富士山須山口登山歩道保存会と富士山自然休養林保護管理協議会の登山案内図・標準標識が併設されている。これらの案内板・標識のなかで「御殿庭上」という地名が異なる場所に使われ、来訪者の混乱を招いている。宝永第三火口西側のCコース(須山口登山歩道)に、保存会の「御殿庭上」(標高2270m)標識がある。一方、宝永第三火口東側、H(宝永火口縁~二つ塚~御殿場口新五合目)コースに、協議会の「御殿庭上」(標高2170m)標準標識がある。両者は直線距離にして約500m近く離れており、登山道を歩けば30分~50分の距離にある。
Cコースの保存会標識「御殿庭上」、標高2270m
Hコースの協議会標準標識「御殿庭上」、標高2170m
また、協議会の標識では、本来、「御殿庭下」と表示すべきところを、「御殿庭」と表示している。「御殿庭」は総称で協議会の歩道案内図に行き先地名としてはない。「御殿庭」では、「御殿庭(下)」、「御殿庭(中)」、「御殿庭(上)」、「御殿庭入り口」のいずれを指すのか分からない。総称「御殿庭」が、御殿庭入り口、御殿庭(上)、旧山体観測装置、御殿庭(中)、須山口・ガラン沢分岐の各標準標識で使われている。
左側の矢印に「御殿庭」、所要時間から「御殿庭下」か
右手前の矢印に「御殿庭」、時間から「御殿庭下」か
宝永第三火口の標準標識「御殿庭上」の近くには、過去に岩に直接「ごてんにわ」と白くペイントした地名表示が残置している。
岩に直接地名をペイント
Cコースは、富士山における適正利用推進協議会の「富士山における標識類総合ガイドライン」でいう、「宝永山御殿庭線」にあたり、同ガイドラインの適用範囲であり、標識や地名の統一などガイドライン遵守が要請される。利用者の安全と利便を確保するとともに、秩序ある良好な風致景観を維持及び形成するため、標識の統合と地名の統一など2011年から報告書通じて再三、改善をお願いし続けているが、対応はなく遺憾に思っている。
Cコース、Hコースの合流点(旧地名「山体観測装置」)の標準標識は「倒れたまま残置されている」と昨年報告したが、今回、本来の位置より、南側の斜面約30mの位置に移動していた。強風によるものと思う。
斜面を約30m移動した標準標識「旧山体観測装置」
昨年報告した標準標識「御殿庭上」とその南東側の標準標識の外れたり外れかかっていた誘導標識板が補修されていた。ボランティア環境パトロールで施設・設備などの損傷を報告し、それが関係者の方により補修され、来訪者の安全や便宜、自然環境の保全につながったことを確認できたときには、「やりがい」を感じる。
補修された南東側の標準標識
各コースには、標準標識やその補助標識、また保存会の標識がほぼ適切な間隔で設置されている。しかし、歩道が自然侵食などで歩きづらくなり、まだ補修されていない箇所には、植生部分に踏み込む迂回の踏み跡ができ、そこに目印のビニール・テープがつけられている。一方、歩道も標識も整備されている区間に、派手なピンク色の(視認性の高い)大量の私的マーキングが設置され、風致景観を損なっている。そのような200を上回る私的マーキングの位置を下図で示す。ローマ数字(Ⅰ~Ⅳ)は、同じ特徴の私的マーキング群。
青色の線は今回のパトロール・コース、紫の丸は私的マーキング、赤色のヒートマップは歩道の荒廃箇所
Ⅰ群 国有林富士山生物群集保護林内。歩道に侵食による通過困難箇所があり、歩道の脇に踏み跡ができ複線化した区間。林床のスズタケが枯れ、林内の見通しが効き、どこへでも行ける。通過(走行)しやすい直線的な踏み跡を私的マーキング(ビニールや木に直接ペイント)が誘導し植生を損傷している。10月以降、私的マーキングが増加した。この区間は、トレイルランのタイムトライアルに使われている。本来の登山歩道補修が行われれば、迂回路と私的マーキングは必要なくなる。
左側の歩道を避け林内へ直線的に誘導、樹木根の損傷
Ⅱ群 以前あったDコースとCコースの連絡路に沿っていると思われるが、途中からマーキングは旧作業道にそって連絡路から離れている。連絡路が使われなくなり踏み跡はほとんどなく、来訪者は道迷いを起こしやすい。実際に進行方向が分からなくなった。
踏み跡もない林内へ誘導
Ⅲ群 ゴンバ沢の定期的な土砂流出で部分的に歩道が分からなくなっている。登山歩道を整備し、標準標識を設置するまでの期間、管理者名やコース名、行き先を明示した公共(協議会)の簡易マーキング設置が必要。
目立つピンク色に加えて目立たない色の私的マーキング
Ⅳ群 国有林富士山生物群集保護林内。国立公園第一種特別地域内。優れた風致景観の御殿庭を横断する連絡路。標準標識も適切な間隔で設置されている。9月9日以降、大量の私的マーキングが設置された。派手なピンク色テープが風致景観を損なっている。2009年11月トレイルランレース時に大量の私的マーキングが短期間に付けられた状況に似ている。状況から今回もイベント目的の私的マーキングかもしれない。
すぐれた風致景観の御殿庭、2種類の私的マーキング
誰が設置したか(管理責任者)、どこへ誘導しているのか(行き先)、なんのために設置した(目的)が、来訪者に伝わらない私的なマーキングが多数設置されていた。管理者名や行き先のない私的マーキングは、2018年夏、須走口で起きた「嘘の矢印騒動」と同様に、来訪者をどこに誘導しようとしているのか分からず、かえって道迷いを起こす危険がある。登山道や歩道は公共の利用を前提としている。私的マーキングを無秩序に設置することは、来訪者の安全や便宜、秩序ある良好な風致景観の維持及び形成を損なうので、来訪者のみなさまには私的マーキングは設置しないようお願いしたい。
動植物
御殿庭周辺の亜高山帯では、日本固有の針葉樹「シラビソ」、「トウヒ」、「コメツガ」、「ゴヨウマツ」、「カラマツ」をみた。渡邉定元さんは『富士山を知る事典』の中で、「生態学的にみて護るべき富士山域の自然をあげると次のとおりである。第一は、亜高山帯の森林植生保全である。地球生態系の視点から日本の自然をとらえると、もっとも固有度の高いのは亜高山帯の森林群落である。富士山は日本列島のなかでその代表である」と指摘している。
ゴヨウマツ
トウヒ、針葉は内側に曲がり握っても痛くない
ハリモミ? 握ると痛くトウヒよりハリモミに近い
シラビソ
コメツガ
カラマツ、常緑の針葉樹の中で秋に黄葉し落葉する
黄葉の終わりを迎えていたカラマツに霧氷がつき、普段見られない景観だった。また、そのカラマツの枝にルリビタキ♀が止まっていた。
宝永第二火口、第三火口鞍部のカラマツに霧氷
標高2250mあたりのカラマツの枝にルリビタキ♀
保存会標識「御殿庭上」(標高2260m)周辺のカラマツは成長し、個体数も増えている。増澤武弘ふじさんネットワーク会長の解説を思い出した。「宝永第二火口縁から南西側の調査地で森林限界がどの程度上昇したか、個体数の急増やカラマツの直立の様子でみると、森林限界は1978年の7区から2008年4~5区へ上昇している」(2016年3月富士山勉強会)。宝永第二、第三火口内の西壁や火口底のカラマツも成長し、数も増えたように思える。
標識背後のカラマツは樹高が高くなっている
2005年7月
一方、その標識から北へ約200m離れた宝永第二・第三火口鞍部の匍匐型のカラマツ(標高2300m)はあまり変化してないようにみえた。強風などが生育に影響しているのだろう。
宝永第二・第三火口鞍部の匍匐型のカラマツ
2006年7月
水が塚公園からD/Eハイキングコースへの入口付近にあるミズナラの枝が枯れている。今回、根本を確認したらフラス(木屑)がついていた。カシノナガキクイムシによる「ナラ枯れ」と思われる。登山歩道を進みながら何本かのミズナラを見たが、根本にフラスは確認できなかった。
須山口登山歩道入口のミズナラ
同ミズナラの根本、フラスが確認できる
ゴミ回収 21個 ゴミ収集記録(調査票に対応)
1.紙 | 3 | 紙片 | 3 | ||
2.布 | 7 | タオル | 4 | その他 | 3 |
3.プラ | 7 | 菓子容器 | 1 | 破片 | 6 |
5.ビニール | 2 | 紐 | 2 | ||
6.鉄 | 2 | その他 | 2 |
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