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2017年7月 7日 (金)

活動報告 2017-03 黒塚・須山口 環境パトロール

活動日時  2017年(平成29年)6月30日(金)13:30 - 17:30 
活動区域  須山口弁当場→黒塚→涸沢出口→フジバラ平→須山口弁当場
天候     小雨、曇り
       
参考     山頂(14時) 気温 4.4゜C、湿度 100%、気圧 645.4hPa
 
 
 出発地の弁当場近くで、6月18日にツキノワグマが目撃され、裾野市より注意情報が出されている。ツキノワグマとの不意の遭遇を避けるため、熊鈴を携行し、時折、大声をだしながら歩いた。また、トウガラシ・スプレイも携行し、お互いにとって不幸な遭遇に備えた。2016年ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)調査区間(下図、区間⑦~区間⑥)のレース実施9ヶ月後の様子を観察し、ビデオと写真で記録した(7回目の2016年植生保全環境調査)。
 
 
20170630
(図 今回の環境パトロール(黄色)。区間はUTMF2016調査区間、背景は静岡県CS立体図、番号は荒廃位置)
 
 
 -梅雨の雨季に入り、レースに使用された歩道では、復旧作業の実施いかんにかかわらず、降雨よる侵食が起きていることを確認した。また、調査区間外の崩壊地では、崩落や土砂の移動による倒木が見られた。
 
 -大調整池やフジバラ平周辺では、大量の外来種ハルザキヤマガラシの結実が見られた。
 
 -本年2月以降の生き物記録では、ニホンジカが大多数を占め、6月に誕生したばかりの当歳子が記録された。また、キツネやアナグマ、テン、ノウサギが撮影されていた。
 
 -須山口登山歩道では、4月以降、来訪者が増加している。レース実施時にスリップが多発した崩壊崖上の狭い歩道地点は、未だに復旧作業が行われていない。来訪者が注意しながら通過する様子も記録されていた。
 
 
 
1. ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)2016植生保全環境調査(通過9ヶ月後)
 
 黒塚・須山口登山歩道の自然環境を一口でいえば、「脆弱」という言葉が当てはまる。側火山堆積物や土壌が浅く崩れやすい地質、大半が10°を超える急傾斜地の地形、過去30年間の年平均雨量が3,000mmから3,500mmの多雨な気象、その降雨や凍結・融解による土壌侵食。そうした自然条件から調査区間全域にわたり土石流危険区域に指定され、災害発生が危惧されている。

 
区間⑦(別荘地東の鉄塔から、黒塚の上りにかかる鉄塔まで)

 過去4回利用された歩道。荒廃後の主催者による歩道表層の修復作業が行われたものの、冬シーズンの降雨や凍結融解、梅雨の降雨により、2016年のレース前より歩道表層の侵食が進み、根の露出が見られる。
 
702520160922
(区間⑦-1 2016/9/22 大規模レース実施前 )
 
 
702520160924
(区間⑦-1 2016/9/24 雨天通過直後)
 
 
702520170630
(区間⑦-1 2017/6/30 2016レース前より侵食進む)
 
 
 
区間③(黒塚鉄塔から、放射谷群南端まで上り斜面) [主催者追い越し禁止区間]
 
 黒塚の急斜面を直線的に上るこの区間は、従来、演習地との境界として管理され、来訪者は少ない。2015年よりコース利用され、酷い荒廃が発生したため、主催者は土砂移動対策として新たに木道(丸太階段)を設置した。2016年のレースでも、再び酷い荒廃がおき、レース後に新たに木道が加えられた。今回、斜面の下の木道部分では、上部からの土砂流出により、丸太が一部埋まったり、縦杭が流出している箇所が見られた。
 
306520170221
(区間③-1 2017/2/21 レース後設置の丸太階段)
 
 
306520170630
(区間③-1 2017/2/21 上部侵食に土砂移動)
 
 
 
区間④(放射谷群南端からフジバラ平まで主として下り斜面) [主催者追い越し禁止区間]

 黒塚の急斜面を直線的に下るこの区間は、侵食により側火山の山腹に多くの放射谷が形成され、人為的な負荷が無くても、土砂流出などの災害が危惧されている。従来、この斜面は演習地との境界として管理され、来訪者は少なく、境界面は、ほぼ平坦であった。
 
 2015年レース以降、大規模ランナーの負荷により荒廃がおこり、平坦な境界面に凹状の跡ができ、多雨や凍結・融解によって侵食がすすんだ。2015年レースによる荒廃確認調査をした主催者は、上り斜面とは異なり、下り斜面では、木道設置原因による侵食の恐れがあるとし、丸太階段は最小限に留められた。

 2016年も大雨の中で調査区間をコース利用し、路面破壊がさらに進み、樹木の根の露出が著しかった。調査区間では、2015年、ランナーが荒廃箇所を回避したり、追い越すために歩道外に踏み込み、貴重な植生を損傷した。2016年には、歩道の拡幅、植生損傷を避けるため、ガイド・ロープが張られ、大規模な負荷が脆弱な歩道に集中し、歩道表層の破壊、樹木根の損傷を起こし、斜面の侵食をすすめている。
 
 2017年5月、主催者は木道設置原因による侵食の恐れがあるとしながらも、下り斜面に新たな木道(丸太階段)を設置した。
 
4xx320170221
(区間④-1 2017/2/21 下り斜面、根の露出)
 
 
4xx320170630
(区間④-1 2017/6/30 急傾斜地に丸太階段設置)
 
 
4xx420170221
(区間④-1 2017/2/21 下り斜面、根の露出)
 
 
4xx420170630
(区間④-1 2017/6/30 復旧作業後、侵食がすすむ)
 
 
4xx520170221
(区間④-2 2017/2/21 大きな段差の木段)
 
 
4xx520170630
(区間④-2 2017/6/30 復旧なく、侵食がすすむ)
 
 
4xx720170221
(区間④-3 2017/2/21 樹木根の損傷、土壌侵食)
 
 
4xx720170630
(区間④-3 2017/6/30 侵食がすすみ根の露出大)
 
 
4xx820170221
(区間④-4 2017/2/21 丸太階段下の侵食)
 
 
4xx820170630
(区間④-4 2017/6/30 侵食がすすみ根の露出大)
 
 
 
区間⑤(フジバラ平から崩壊崖の狭い歩道まで) [主催者追い越し禁止区間] 
 
 5回連続使用されたこの区間は、2016年の大規模トレイルラン・レースでは、緩傾斜地でも歩道の土壌表層破壊(エグレ)、泥濘化、拡幅、複線化が見られ、植生損傷も著しかった。90件以上のスリップを起こした地点では、未だに登山歩道の修復が行わている様子はなく、梅雨シーズンの雨で侵食が進んでいる。
 
 
P1110941
(区間⑤-1 2016/10/26 スリップ多発地点)  
 
 
Imgp4648
(区間⑤-1 2017/6/30 侵食がすすむ)
 

 崩壊崖上の狭い歩道地点の現状では、来訪者は、この地点の通過に際し、崖下への転落を避けるため、根を摑むなど安全に注意して通過している(同様な通過が8件記録されている)。大規模イベントの影響で、須山口登山歩道の来訪者の安全が損なわれたままだ。
 

Photo_2
 
 
  
区間⑥(崩壊崖の狭い歩道から涸沢出口まで) [主催者追い越し禁止区間]
 
 5回連続使用されたこの区間は、2016年の大規模トレイルラン・レースでは、コースの涸沢が増水、濁流となり、一時、通過できなくなった。数百人規模の渋滞、滞留が発生し、歩道の複線化、植生損傷などが見られた。梅雨シーズンの降雨で人工斜面の侵食が進み、歩道の陥没や倒木が発生した。
 
P1100103
(⑥-1 2016/9/25 レース実施直後)
 
 
Imgp4615
(⑥-1 2017/6/30 陥没、枝を挿入し通行禁止状態)
 
 
P1110891
(⑥-2 2016/10/26 レース実施後、根の踏みつけ)
 
 
Imgp4608
(⑥-2 2017/6/30  根返り倒木)
 
 
 
●環境省のモニタリング・ガイドライン
  
 2017年3月に公開された環境省の「国立公園内で開催されるトレイルランニング大会等におけるモニタリングの手引き」では、トレイルランニングの影響が出やすい箇所を取り上げている。

a.コースから外すべき区間とされている地点
b.歩道の幅員が狭い地点(手前の幅員が広く、急に狭くなる地点)
c.路面にぬかるみが生じている地点・雨天時にぬかるみが生じやすい地点
d.洗掘が生じている地点
e.傾斜がある地点(コースの進行方向に対して下っている地点)
f.下り方向のカーブや緩やかなカーブが連続する地点・開けて見通しがよい地点
g.木製等の階段が設置されている地点(特に下り方向で使われる場合)
h.路面上に樹木の根が張り出している(露出根のある)地点
i.樹木の枝がコース上に張り出している地点
j.希少な植生や動物が確認されている地点
k.登山道が不明瞭な地点

 この中で、黒塚・須山口登山歩道はa、b、c、d、e、g、h、j、kの箇所に該当する(太字は筆者による)。特に過去、調査区間で脆弱な急斜面に木道(丸太階段)を設置し、木道や歩道表層を破壊し、樹木根を損傷した実例という観点からみると、c、d、e、g、hが注意箇所となる。

 環境省のホームページには、このガイドラインを作成に関わった有識者として主催者実行委員会の下記役員の方が参画していると紹介されている

  千葉 達雄 NPO法人富士トレイルランナーズ倶楽部・事務局長 (実行委員会事務局長)
  村越  真  静岡大学 学術院教育学領域 教授 (実行委員会副委員長)

 主催者の環境調査も担当し、発生しやすい荒廃箇所の知見もあり、実際の観察もされている。この区間の迂回を是非、実現して欲しい。
 
 
 黒塚・須山口登山歩道区間は迂回策も採られないまま、雨天に強行され、1,000人を上回るランナーにより利用された。この大規模な負荷には、主催者による木道(丸太階段)設置は逆効果となり、結果的に荒廃の拡大、激甚化を招いている。過去5年のモニタリング結果は、今後とも、同様な対応を続けた場合、公共の歩道が廃道になることを教えている。
 
 自然環境への負荷を低減し、来訪者の安全を確保するためには、気象にかかわらず、過剰な負荷に耐えるよう、歩道の支持力を大幅に増す根本的な土木工事対策(コンクリートによる路体補強や舗装など)が必要だ。ただし、自然環境利用の経済性を考えただけでも、その実現には極めて高いハードルがある。

 大規模トレイルラン・レースのコース選定で、「脆弱」な富士山南麓の側火山エリアの自然豊かな歩道を迂回することが、現実的で可能な解決法だ。

 
 
調査区間外での荒廃状況
 
 2012年に使用された崩壊地上のコース(第二崩壊地、現在は立ち入りできない)では、崩落が進んだ。2012年から2013年、2014年と利用された崩壊地のコース(第三崩壊地)では、歩道脇の樹木が倒れた。 

P1130472
(第二崩壊地 崩壊崖上の旧歩道 2017/4/28)
 
 
Imgp4624
(同地点 2017/6/30 右下の崖が崩落)
 
 
Imgp4763
(第三崩壊地の樹木根返り 2017/6/30)
 
 
Imgp4770
(同地点 2017/6/30 倒木斜面上部は送電線のため伐採)
 
 
 
2. 外来種繁殖状況
 
 毎年のように須山口登山歩道周辺で外来種のハルザキヤマガラシ(要注意外来生物 類型2)の繁殖が確認されている。今回もハルザキヤマガラシが多数結実しているのをみた。フジバラ平調整池周辺、大調整池東側の人工斜面歩道の周辺に多く見られる。
 
 
Imgp4707
(フジバラ平調整池水際 2017/6/30 )
 
 
Imgp4604
(大調整池東側のコースとなる歩道 2017/6/30 )
 
 
 
3. 野生動物通過の記録(上り、下りの合計)

 
 2017年2月~同6月では、ニホンジカ、今年誕生したニホンジカ、キツネ、テン、ニホンアナグマ、ノウサギが通過。ニホンジカが撮影の殆ど占めている。
 

Photo_4
 
 

Photo_5
(ニホンジカ)
 
 
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(ニホンジカ メス成獣と当歳子)
 
 
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(キツネ)  
 
 
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(テン)
 
 
Photo_9
(ニホンアナグマ)
 
 
Photo_10
(ノウサギ)
 
 
 
4. ゴミ回収 35個 ゴミ収集記録(調査票に対応)
1.紙 3              (7)紙片 3
3.プラスティック 27      (3)菓子容器 10   (5)破片 15     (6)その他 2
5.ビニール 3          (2)袋 1        (4)紐 2
6.鉄 2              (2)飲料缶 2
 
 

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コメント

地道な活動に敬意を表します。
大勢が足を踏み入れる行為、それどれほど自然にインパクトを与え、侵食が進められるか、大会関係者は直視し、熟考するべきです。

投稿: 最勝寺久和 | 2017年7月 8日 (土) 05時30分

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