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2017年4月19日 (水)

富士山南麓 「黒塚・須山口登山歩道」 モニタリング活動から

 富士山南麓の生態系ホットスポットと呼ばれ、みんなが大切にしている公共の歩道やその周辺自然環境が、特定の大規模イベントの影響で荒廃してきた。その荒廃は年々拡大し、激甚化していることが、この5年間のモニタリングで明らかになってきた。

 
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(富士山南麓のコースは年間を通じて雨が多く、とりわけ、側火山エリアは傾斜が急で、崩れやすい火山堆積物で覆われている脆弱な場所だ。北麓側は南麓に比べて雨は少なく、コースは富士山本体の側火山エリアにまで入り込んでいない)
 
    

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(黒塚・須山口登山歩道。黄線はコース一部の2016年調査区間。出典は静岡県CS立体図。赤い部分は凸部、青い部分は凹部、地形図では分かりにくい微地形が表現されている。黒塚側火山の侵食が進む放射谷群や同じく北黒塚側火山の崩壊崖上の狭い歩道がコースになっている)
 
 
 
 まず、「2016年ウルトラトレイル・マウントフジ植生保全環境調査概要報告(追加)」で現状を紹介する。2016年大規模トレイルラン・レース実施後の黒塚・須山口登山歩道がどうなったか、2015年大会後の修復工事の効果や5年間の継続利用による荒廃の拡大・深刻化を共有してほしい。
 
 
●追加報告の内容

 ①登山道や周辺環境の荒廃に対して、主催者側が何もしていない訳ではない。部分的にコースを変更したり、2015年9月の大会実施後に主催者による丸太階段や土流出防止丸太の設置など補修作業が行われ、2016年の大会時には追い越し禁止のロープも張られた。こうした対応にも関わらず、2015年の荒廃と今回2016年の荒廃を比較すると、2016年が全体的に荒廃が酷く、とりわけ、歩道の路体にかかわる表層破壊や樹木の根損傷が拡大し、激甚化している。路体の許容限界を越えた負荷のため補修作業の効果は限定的となっている。
 
 
2016vs2015
(比較した全区間で路体にかかわる歩道表層破壊、根の損傷が明確に増加。崩壊が進む崖上の狭い歩道を含む5年継続利用の区間(⑤、⑥)で全ての荒廃種類が明確に増加)
 
 
 
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(主催者の2012年~2015年の環境調査と私達の2016年のモニタリングで計測された大会実施前の黒塚・須山口登山歩道の土壌支持力は、山中式土壌硬度計で15mm以下だ。トラクターで耕す時、田畑が泥濘んで作業できるかどうか判定する目安が15mmとされている。人が走行するときの接地圧はこのトラクターより高い。ましてや、1,000人を上回る大規模な連続踏圧の形で15mm以下の軟弱な歩道に負荷が加え続けられれば、歩道表層の破壊や樹木根の損傷が多発する。この歩道を継続利用するための解決策は、通過人数を大幅に減らして歩道の支持力に見合った負荷にするか、歩道自体を舗装するなど支持力を大幅に高める必要がある)
 
 
 
 ②5年連続利用した崩壊崖上の細い歩道では、ランナーのスリップで歩道からずり落ちた事例が数多く(約90件)発生し、その場所が谷側へ傾斜したまま整備されず、冬場の路面凍結で一般来訪者の通過が極めて困難な状態にまでなっている。レース参加者の安全だけではなく、レースに起因する歩道の荒廃によって、この公共の歩道を利用する他の来訪者の安全が損なわれてはならない。
 
 
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 ③実行委員会は、2012年の第1回大会以前から須山口登山道を脆弱と考え、第1回大会の主催者環境調査でも、影響が大きいことを指摘し、雨天の場合はさらに影響が大きいとしながら、迂回など順応的かつ効果的な対策をとらないまま利用し続けた。その結果、荒廃の拡大、激甚化を招いている。この過ぎ去った5年をきちんと振り返ることよって、はじめて次の5年が展望できる。
 
 
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 ④須山口登山道では、適切なガイドに引率された小グループのエコ・ツアーやハイキング、自然観察会など分散的に利用することが、その脆弱な自然環境に加える負荷が少なく、持続可能な利用法となる。


 2012年から連続して3回大規模トレイルラン・レース(各年700人、1800人、1100人通過)のコースとして使われ、2015年、2016年と使われなくなった区間でも、通過した部分がミズ道化し、20cmを超えて土壌侵食が進み、埋設されていたホースが露出してしまった。まとまった降雨の度に侵食が進み荒廃が顕在化している。たとえ雨天の中で通過しなくても、一旦、表層土壌が崩れた道はその後の雨で荒れていく。脆弱で雨が多い所の登山道の荒廃が進行する様子は定期的なモニタリングをしてみて初めて解る。
 
 
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2012年5月20日 1回目の大規模レース実施後。
 

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同地点、2016年7月30日 連続3回利用され、2015年、2016年と利用されなかったが、侵食は進行中。
 
 
 
 
 毎年のモニタリング結果を振り返ると、この5年間の大規模トレイルラン・レースによる黒塚・須山口登山歩道や周辺自然環境荒廃の一因は、あきらかに富士山南麓の環境許容量を越えた特定イベントによるオーバー・ユースにあると言える。
 
 
 「雨が多い東南アジアの大規模トレイルラン・レースでは、環境省がコースを舗装して利用している」と大会関係者から聞いた。雨が多く軟弱な環境特質のトレイルで、大規模な負荷を支え、歩道やその周辺自然環境を保全するるための措置であろう。同じように雨が多く軟弱な富士山南麓の登山歩道を、大規模トレイルラン・レースで利用し続けるなら、こうした「舗装」という手段が解決になるのかもしれない。しかし、、、

 そもそも、「トレイルランニングは野山の未舗装路を走る」とトレイルランナー団体の大会開催ガイドラインに説明されている。黒塚・須山口登山歩道を利用し続けている団体役員が、このトレイルランナー団体の役員に、大勢名を連ねている。富士山南麓の黒塚・須山口登山歩道の荒廃の現状もよくご存知だ。今後も大規模な負荷がかかるイベントでここを利用し続けるのなら、軟弱な歩道を舗装する必要がある。そうなれば、トレイルランニングではなくなる。

 また、舗装することは、自然環境保全や利用の観点から、さらには経済性の面でも新たな課題が続出する。その前に、軟弱な富士山南麓の側火山エリアは迂回することで解決できる。
 
 
 
ウルトラトレイル・マウントフジ植生保全環境調査 富士山エコレンジャー連絡会編
 
 
 1. 2012年報告書 (31MB)
 
 2. 2013年報告書 (7MB)
 
 3. 2014年報告書 (12MB)

   2012年~2014年写真資料 (17MB)

 4. 2015年報告書 (5MB)

   2015年写真資料
    区間① (6MB)
    区間② (3MB)
    区間③ (6MB)
    区間④-1 (5MB)
    区間④-2 (2MB)
    区間⑤ (2MB)
    区間⑥ (1MB)
    その他 (2MB)

 5. 2016年報告書 (4MB)

  2016年報告書(追加) (2MB)

  2016年写真資料
    区間⑦ (8MB)
    区間③ (10MB)
    区間④ (14MB)
    区間⑤ (10MB)
    区間⑤スリップ (2MB)
    区間⑥ (5MB)    
 
 

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