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2016年7月23日 (土)

「トレイルランニング」報道にみる公共放送の公共意識

「トレイルランニング」の公共意識を扱ったテレビ放送があった。公共放送が、この社会問題をどのように、取り上げるか視聴した。


前半は、今、首都圏各地で開催されているトレイルランニング大会の一例として、埼玉県・奥秩父で開催された700人規模の大会の話題。後半は、トレイルランニングに対する社会的議論の例として、鎌倉や高尾山でのハイカーへの危険やトレイルランニング愛好者によるマナー自主啓発などが伝えられていた。


後半部分は、公共の山道での、普段お目にかかるランナーとハイカーの軋轢といった話だ。最近、多くのハイカーが、山道で実際に、「怖い」、「危ない」と思った経験をしている。こうした報道や議論によって、安全に関わる部分は、公共のルール(規制)が設けられるだろう。マナー改善の取り組みも、トレイルランニング固有の問題というより、歩く人が利用する公共の道での課題のひとつとして改善されていくのではないか。


前半部分のトレイルランニング大会は、番組キャスター自身が参加し、走っている様子を伝えていた。彼は、「自然の中を走るのは、素晴らしい」といった感想を話していた。開催自治体は「人が来れば、地域振興だ」という趣旨の発言をしていた。一方で、トレイルランニング大会固有の自然環境への影響について、全くといっていいほど触れていなかった。


2015年に環境省が出した「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱い」では、大会主催者に、モニタリングの必要性と、万一環境の改変等が確認された場合は、大会主催者による原状回復を行うことを求めている。


このモニタリングに関連して、登山道の荒廃問題に詳しい、北大の愛甲哲也さんは「走ったり,追い抜いたりすることによって,土壌侵食を加速していないか,路傍の植生を踏みつけていないか,周辺の小動物の生息は影響がなかったかなど,トレイルランニング大会等が顕著に関与したかがモニタリングのポイント」と指摘している(『「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱い」に思ったこと』、「公園の研究」)。


モニタリングを持ち出すまでもなく、一般の視聴者はもちろん、トレイルランナーでさえ、レースの後、彼らが通った公共の山道がどうなったか知らない。過去4年間、ボランティアとして富士山南麓での大規模トレイルランニング大会の負荷を記録してきた経験からいえば、コースとして利用された公共の山道は、年々、悪化をたどっている。公共放送が自然環境への影響を取材することは、全く難しいことではない。


公共放送は、ランナーとハイカーとの軋轢問題と同様に、トレイルランニング大会の負の部分も報道することによって、議論を促し、解決への知恵を求める役割があるのではないか。公共放送は、「公共意識とは何か」範を示すときだ。


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2016年7月13日 (水)

絶滅が危惧されるツキノワグマ富士山個体群

夏山シーズン静岡県側開山日前の週末(7月2日)、富士宮口を訪れた。

五合目駐車場から宝永火口縁への周遊コースで見慣れぬものを見た。
「熊出没」の注意掲示だ。6箇所掲示されていた。
 
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この周遊コースを何度も利用しているが、標高2,350mを超えるこの場所で「熊出没」注意の掲示を見るのは初めて。
 
 

富士山南麓では、概ね、1000mから1500m付近のドングリなど食料が多い落葉広葉樹林を中心に、痕跡があったり、目撃情報、人身事故の話を聞いてきた。
 
 
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標高2,700mに位置する乗鞍岳畳平でのツキノワグマによる人身事故が記憶に残っている。高標高域への出現は、残飯が誘引との見方があった。

宝永火口縁周遊コースの場合は、残飯がきっかけとは考えにくい。ツキノワグマの行動圏が変化したのだとすれば、原因があるに違いない


富士山周辺のツキノワグマは「富士地域個体群」と呼ばれている。ほかの地域から道路などで分断されて、生息区域が狭くなってしまい、静岡県版レッドデータブックでは「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されている。


ツキノワグマが生息しているということは、そこに豊かな自然環境が残っている証拠だ。この豊かな自然環境は、私たちの貴重な財産だ。人身事故を防ぎ、ツキノワグマ富士山個体群を絶滅から守っていく知恵が求められている。


日本人は富士山を誇れる山とし、その恵みを後世に継承するため、世界文化遺産に登録した。世界の人々に、この富士山を保全する約束をした。いうまでもなく、世界文化遺産の普遍的価値、すなわち、「芸術」と「信仰」は、富士山の豊かな自然に支えられている。


この原生的な自然が豊かに残っている特別な場所で、命を永らえてきた野生動物を、自然への配慮を欠いた行為で、私たちの時代に絶滅に追いやるとしたら、日本人として、あまりにも寂しすぎる。

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2016年7月10日 (日)

富士山南麓の歩道は大規模トレイルラン・レースには軟弱

 6月4日(土)ふじさんネットワーク総会後の活動報告会で、「富士山エコレンジャーによる植生環境保全調査(4年間のまとめ)」を報告した。 質問を入れて30分の持ち時間の中で、「富士山南麓の歩道は大規模トレイルランレースを実施するには軟弱」、「夜間、長時間利用による野生動植物への悪影響」といった趣旨は、お伝え出来たと思う。
 

富士山南麓の歩道は大規模トレイルランレースを実施するには軟弱
 
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2012年の主催者報告書のなかで、主催者は利用したコースの実施後土壌硬度が27mm(山中式土壌硬度計)以上ではなかったから、裸地化の心配はないとした。そのとおりだ。土壌硬度が27mm以上といえば、林業で小型トラックの通行が可能になるよう補強された作業道レベルの硬さだ。もともと、須山口登山歩道のように軟弱な歩道は、大規模トレイルラン・レースで27mm以上にならないだろうし、実際、主催者の報告では18mmを超えない。
主催者の写真を見ても分かるように、歩道の表層や植生に、大規模ランナーの通過によってできた変化(轍のような痕や損傷)が見られることがポイントだ。
 
 
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主催者が行った山中式土壌硬度計を使った大規模トレイルラン・レースの調査で注目すべきは、実施前に測定した土壌硬度だ。これは、コース(歩道)の土壌支持力、地耐力を示している。私達が4年間モニタリングしてきた須山口登山歩道は、このブログでも何度もお伝えしたとおり、レース直後、降雨後に荒廃が記録されている。土壌支持力(土壌硬度)が低い、軟弱な歩道は、大規模トレイルラン・レースの負荷には耐えられない。
 
私達の記録と主催者の実施前土壌硬度調査から、事前の環境アセス、コース選定の条件が見えてくる。土壌硬度15mm以下は軟弱で大規模トレイルラン・レースには耐えられない。15mmから18mmは要注意だ。


夜間、長時間利用による野生動植物への悪影響

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トップアスリートと一般ランナーが長距離を競技するこの大会では、先頭から最後尾まで長く伸び、通過にかかる時間が長くなる。今までの大会では、須山口で通過に、9時間から26時間を要していている。棒グラフの黒い部分は夜間。深夜でさえ、延々と通過し続けている。「原生的な自然環境が豊富に残っているゾーン」の夜間利用は、野生動植物に対する大きなストレスだ。
 

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人身事故回避と絶滅のおそれがある、富士山地域個体群の保護をめざして「ツキノワグマが生息することを意識した森林の利用(あるいは利用制限)」を静岡県の野生動物専門家は提言している。そのツキノワグマのコアになる生息域を大規模トレイルラン・レースは、コースとして利用し続けている。今年2月の意見交換会で示された今後のコースや、周回方向は、さらにツキノワグマのコア生息域に入り込み、そこでの追い越しを前提としている。最近、富士山南麓ではツキノワグマの行動圏が変化したのか、従来、見られなかった場所での発見、注意喚起の掲示があり、お互いにとって不幸となる遭遇を懸念している。


今回、毎日新聞の取材があった。報告会翌日、朝刊静岡版に記事が掲載された。全国からアクセスできる毎日新聞電子版にも掲載された。富士山自然環境保全のため、社会へ発信し、現状を共有していく作業は重要だ。

富士山での大規模トレイルラン・レースの影響を知っている人は、ほとんどいない。この実態を広く世の中と共有し、課題箇所の迂回など、より賢明な方法がとられていくことを期待したい。


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